2017.2.16 

大企業に広がる「働き方改革」
~トレンドは"時間"ではなく"成果"への着目~ (前編)

Ⅰ.働き方改革の課題と方向性

 

 2016年、政府の旗振りの下でにわかに注目を集めた「働き方改革」ですが、経済界では大企業を中心に、働き方改革が人材の採用や定着、仕事の質向上などに資するとして、「経営にプラス」との受止め方が主流となっています。何より企業イメージへの影響が大きいため、他社より先進的な改革を一歩でも先にと駆り立てられ、いまや競争の様相まで呈しています。

安倍首相の肝煎りで働き方改革を主導しているのが、働き方改革実現会議です。そこでは、9つの討議テーマが掲げられています。

 

 企業の本音として、これらテーマの中で最も目標とすべき課題は、「労働生産性の向上」でしょう。急激に進行する少子高齢化の下、行政の圧力を受けるまでもなく、子育て・介護支援や賃上げによって離職を防ぎ、柔軟な働き方を設定して女性や若者、高齢者、外国人を活用することは人手確保のために避けられません。働く時間に制約のある人手と高い時間単価賃金を両立させつつ経営を成り立たせるには、一人ひとりの生産性を向上させるほかないからです。

 これまで、働き方改革実現会議では、長時間労働の是正と非正規雇用の処遇改善(同一労働同一賃金)の推進に力を入れてきましたが、いよいよ「生産性向上」を前面に打ち出し始めました。政府は、働き方改革を「一億総活躍社会の実現」の中心に位置づけており、多様な働き方を受け入れる社会への変革がそもそもの目的です。一方で、多様な働き方が生産性向上を伴うものでなければ、経済も雇用も縮小し、本末転倒でしかありません。

 

~すでに、企業の行動は始まっている~

 働き方改革で取り上げられているテーマのほとんどは目新しいものではなく、古くは10年近く前から、ワーク・ライフ・バランスや過労死防止などの切り口で政府は検討を重ね、企業に取組みを働きかけてきました。

 したがって、すでに多数の企業において、労働時間削減や女性活躍推進等の取組みが実践されています。後に続く企業の参考になるよう、政府(厚生労働省、経済産業省、総務省など)や使用者団体(経団連など)、労働者団体(連合など)はそれら先進企業の事例を集め、積極的に公開しています。そのような公開事例の中から、働き方改革と業績向上をいかに両立させるか、そのヒントになる取組みを紹介しましょう。

 

 

Ⅱ.働き方改革に前向きに取り組む企業事例

 

 公開されている好事例は何百社分もありますが、効率的な働き方をいかに定着させるかという点に工夫をこらし、成果を上げている企業を抽出してみました。

 

■情報通信業・製造業編

 ~課単位で時短を競わせ、インセンティブで意識改革~

 長時間労働の典型業種と見られてきた情報通信業の中で、SCSK株式会社は、残業時間の削減と業績向上を両立した企業として、各方面の注目を集めています。同社は、2013年4月より「年次有給休暇取得日数20日、平均残業時間20時間/月以下」などを目標に掲げ、活動を開始しました。

ポイントは、残業削減にインセンティブをつけたことです。同社では、減少が見込まれる残業手当の全額を原資にして、部門単位の達成状況に応じた賞与加算を実施しました(2014年度まで)。つまり、労働時間短縮をプラス評価にして、残業を少なくしても年収が下がることがないように工夫したのです。

 そして、効率的で生産性の高い仕事を行うため、アイディアコンテストや取組事例の表彰を実施するとともに、課単位での取組施策を社内ポータルに掲載し、業績目標にも取組みを連動させるなどの仕組みを作りました。併せて、全社的に業務プロセスを見直し、残業時間の長い部署に手順遵守を徹底させました。さらに、長時間労働や休日出勤に対する賦課金制度(社内管理上、営業利益に賦課し、役員評価等に加味する制度)や、長時間労働者に関する改善報告書(四半期単位で上司が人事部門へ提出)も導入しました。

 これらにより、2012年度に全社平均で26時間10分あった残業時間を2015年度に18時間まで削減できました。一方で労働時間短縮にもかかわらず、2015年度までに6期連続で増収増益を達成しています。

 2015年7月から裁量労働制の対象者を拡大し、また、裁量労働制対象外の社員にも固定残業代(20時間/月、基幹職には34時間/月相当、超えた時間は別途支給)を支給する制度を導入しましたが、制度導入後も、引き続き残業時間が減る傾向にあるということです。これは、上記のような活動を通じて、効率性の低い長時間労働には意味がないという、生産性を意識した働き方が一人ひとりに浸透した結果といえます。

(資料)厚生労働省「働き方・休み方ポータルサイト:働き方改革取組事例」(2015年7月掲載)など

 

~面談とPDCAサイクルによる、的確性の追求~

 化学繊維ほか化学品の製造大手、東レ株式会社では、働き方改革の取組みを経営理念である現場主義に基づき推進しています。「現場・現物・現実をよく見て現状分析を徹底的に行い、「あるべき姿」と「やるべき事」を明確にして、本質を突いた的確な取組みと生産性の高い効率的な働き方につなげていく」というやり方です。具体的には、上司と部下が個別に面談で働き方について話し合い、各自の仕事の進め方を見直しています。

 また、同社は、経営活動であるPMP(Proactive Management Program)活動と働き方改革を連動させています。PMP活動とは、「設定した課題に対してはPDCAサイクルを回し、その進捗をタイムリーかつ的確に把握し、軌道修正やリカバリーが必要な場合には、早めに関係者の方向性をそろえて即応していく」という日次管理による攻めの活動です。この活動と連動させることにより、生産性の高い業務遂行につなげていきます。さらに、現場の管理会議等で時間外労働等の動向を毎月フォローし、増加した場合はその原因分析と解決に取り組んでいます。

 一方で、全社的には、1991年以来、事業運営の効率化を高め、業務革新・業務遂行プロセスを抜本的に見直す取組みを推進しています。

(資料)厚生労働省「働き方・休み方ポータルサイト:働き方改革取組事例」(2015年8月掲載)

~職務給と裁量労働制による、役割と成果での評価の徹底~

 2005年4月に山之内製薬と藤沢薬品工業の合併により生まれ、業界売上第2位(2015年度)のアステラス製薬株式会社は、合併を機に給与を職務給に一本化しました。職務給とは、従事する職務の難易度と価値で決まる給与のことです。職務に給与が結び付いていて、年齢、勤続年数や職務遂行能力といった人の属性に給与が関連づけられている職能給と対比されるものです。

同社では、職務給に基づく「Pay for Job, Pay for Performance」の考えのもと、評価は時間ではなく役割と成果で測るよう厳格化し、社員の意識を変えています。さらに、裁量労働制を導入したことで、長時間頑張っているという時間軸での評価は見られなくなり、目標管理制度をより有効に活用できているとのことです。

(資料)厚生労働省「働き方・休み方ポータルサイト:働き方改革取組事例」(2015年3月掲載)

~選択できる働き方と人事評価の納得性で、離職率低下とチームワーク向上~

 グループウェアの開発・販売会社のサイボウズ株式会社は、新卒男性が集まりにくかったベンチャー企業ならではの事情もあり、優秀な人材として女性に着目し、2005年頃からダイバーシティ(多様な人材活用)経営に取り組んできました。

 人生のイベントに合わせて働き方を変更できる「選択型人事制度」を導入し、「時間に関係なく働く」「少し残業して働く」「定時・短時間で働く」の3つのコースから、誰でも自らの自由意志で働き方を選択できるようにしました。賃金制度は、評価が同じであれば、どのコースでも時間当たりの賃金は同額という、働き方に中立な設計です。

 人事評価で重視するのは、「信頼度」というユニークな尺度です。同社は、時間のみならず、勤務場所についても社員の自由度を高めています。時間や勤務場所の自由な社員が増えれば、それだけ、いかに価値観を共有し、同じ方向に向かって進んでいるか、つまり「どれだけ信頼できる人材か」が重要になると考えたためです。信頼度を測る基準は、次のような「Action5+1」と呼ぶ6つの行動です。

 

サイボウズの人事評価基準(Action5+1)

 基準のActionが十分でない社員、例えば、「役割(課題)を果たすために必要な知識の習得」が不足している社員への信頼度は、習熟している社員よりも低くなります。評価結果は、部長・本部長クラスから社員へ、直接面談のうえ、必ずフィードバックすることになっています。その際、原因つまり改善ポイントが明確に提示されるため、評価を上げるために何をすればいいのかが社員に伝わり、評価は、同時に成長を促すためのものとなっています。

 さらに「上司がちゃんと見てくれている」ことが伝わるため、社員の納得感が非常に高まった結果、2005年以前の離職率が高かった時期には多くみられた評価に対する社員からの不満が激減しました。丁寧な評価がコミュニケーションの手段となり、チームワークを高める役割を果たしているのです。

 物理的に十分に上司の目が届きにくい就業形態であっても、「信頼度」という評価基準を軸に据えることで企業と社員の向かうベクトルをそろえ、評価面談を通じた上司・部下のコミュニケーションが不信感を払拭する好循環を生み出すことを示した好事例でしょう。

(資料)経済産業省 平成25年度「ダイバーシティ経営企業100選」ベストプラクティス集

 

 

ここまで、情報通信業と製造業の取組み例を見てきました。どこも、働き方改革へのトップの強い意志と経営計画と結びつけた評価制度が特徴的です。効率的な働き方を社員に常に意識させるために、裁量労働制の適用対象を広げたり、裁量労働制の対象外の社員には固定残業代を支給したりして、適法な範囲で労働時間と給与を切り離す動きが広がってきているようです。

 また、社員の成長と貢献への期待を担保するために、信頼できる社員に育つよう評価基準によって方向付け、フィードバックを重視した面談で成長を加速させるといった仕組み作りに、各社工夫をこらしています。

 次回は、非正規社員が重要戦力となっている小売業と飲食業で、人材確保や人材育成に評価制度を活かしている好事例を紹介しましょう。実は、人手不足が深刻な小売、飲食、サービスの業界では、人材の囲い込みの方策として、評価制度の改革が先進的に取り組まれています。

 

(2017.2.16)

 

 

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4億1010万円(資本準備金含む)
設立
2008年9月25日
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