あしたのチーム主任研究員 由木竜太先生レポート 「人事評価制度による最新の企業防衛策とは」 ~法的規則、導入の際の問題点、裁判例より~

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1.明確に定められていない評価制度についての法的規制

実は、人事評価制度というものに対して、「どのような項目で評価するか」「評価の基準をどのように設定するか」ということについて、法律上の規定はありません。すなわち、人事評価制度の設置理由に鑑み、企業に裁量が認められているということもできるのです。ただし、評価を行った先にある査定行為が「均等待遇(労基法3条)」「男女同一賃金(同法4条)」「昇進等についての男女均等の取り扱い(雇用機会均等法6条1号)」「不当労働行為(労組法7条)」に反しない限りという前提条件はあるので、その点は注意する必要があります。

企業の規模感によっては人事評価制度を導入するのが適さない場合もあるかもしれませんが、ある程度の人数になれば社員のモチベーションを維持する為にも人事評価制度を設け、賃金や役職との連動を明示することで就業意欲の向上を導けるのではないかと、新しく制度を導入する、もしくは改変するという相談も増えてきています。「評価の結果と連動させる」というのが一つの賃金体系になります。そこで賃金を定める方法については、労働基準法上に明確な規定はありません。人事評価制度は、労働条件の「賃金」の部分に繋がります。賃金については労働基準法の諸原則がありますが、それは払い方の問題です。

 

2.評価制度を導入する際の問題点・注意点

 人事評価制度の導入といってもやみくもに導入をすれば良いというわけではございません。導入する際の問題点・注意点を理解した上で導入いたしましょう。以下が問題点・注意点となります。

 2-1.浮上する「不利益変更」の問題

 評価制度を導入し、成果に基づいて賃金・処遇を決定することも可能です。しかし導入に当たっては、就業規則の不利益変更の問題をクリアする必要があります。

 年功序列型だと仕事の成果に拘らず年齢や勤続年数によって賃金が上がるので、企業の人件費の適切な配分が出来ないという理由から、賃金体系を見直す企業も増えています。しかし、年功序列型は賃金が下がることは想定していませんでした。そこで評価を伴った成果主義の賃金体系に変更すると、賃金が下がることも予定されてきます。つまり、労働条件が不利益に変更される可能性が生じるのです。 

2-2.就業規則の改定という解決法

そもそも労働者に支払われる賃金は、労働契約における重要な要素です。そのために一旦決めた賃金を変更する場合には、労働者の個別的同意を取るのが原則となります。しかし、従業員数が増えると個々に確認を取るのは不可能な対応になるので、そこで一つの方法として就業規則の改定があるのです。

労働契約法
第十条  使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

 なお、その就業規則の変更によって賃金という重要な労働条件を変更することになる為、評価制度を伴う賃金体系を就業規則に規定する際は、高度の必要性に基づいた合理的なものであることを、企業側にて立証できるようにしておく必要があるのです。

2-3.合理性の判断基準

 裁判例では、以下のような項目に照らして、評価制度導入の合理性が判断されています。 

合理性の判断基準
・人事評価制度導入ないし賃金体系変更の必要性
・賃金原資の減少の有無
・賃金の増減額の幅
・経過措置
・人事評価制度の適正さ
・労使交渉の経緯

 例えば賃金の大幅な減少を伴う際には、調整手当といった緩和措置が取られているかを問われた例もあります。また、制度の導入・改変にあたり、企業側と労働者側で、導入・改変の理由、改変後の内容についてどのような交渉をしているかも重要となります。なぜなら、企業側が一方的に定めることの出来る就業規則によって、労働契約の重要な要素である賃金を変更するので、契約内容は当事者の合意を持って決定する必要がある為です。 

2-4.減給・降格を就業規則へ明示

職能資格・等級の引き下げは、労働者との合意により契約内容を変更する場合以外は、就業規則等労働契約上の明確な根拠がなければなし得ません。なお、降給につき、それを正当化する勤務成績の不良が認められず、退職誘導など他の動機が認められるというような場合には、人事評価権を濫用したものとして、降給が無効となり得ます。また、契約上の根拠があっても、著しく不合理な評価によって大きな不利益を与える降格の場合は、人事権の濫用となり得るのです。 

2-5.人事評価制度構築・運用の注意点

 上述の理由から、以下の点を踏まえて評価制度を構築するのが望ましいということが出来ます。

人事評価制度構築・運用の注意点
・評価項目や評価基準が明確となっているか
・評価基準が合理的なものとなっているか
・評価方法が適切なものとなっているか
・評価者によるばらつきがないか
・評価結果に著しい偏りがないか

 運用に当たっては、目標設定や評価における公平性、透明性を確保することがポイントです。

 

 3.評価制度にかかわる裁判例

上記3つの裁判例は様々な事案により起きていますが、人事評価制度の導入が判決を左右しているケースが多いことがわかります。

4.まとめ

人事評価制度は法律上の規制はないものの、評価権を濫用していると判断されると、裁判所によって一定の制約を受けます。ただし、企業の理念を実現する為に非常に有用な制度でもあります。その目的に即した的確な評価制度を導入し、適切な運用で社員と向き合うことが、企業にとっての防御策になるのです。

昨今、労働相談のハードルが下がっています。つまり、企業側はどこから矢が飛んできても対応できる準備をすることが何より大切になります。頻繁な法改正への適合も含め、人事評価制度は一度作ったから終わりではなく、日頃からブラッシュアップし、適切な運用を継続することが必要なのです。